研究概要 |
昨年度の研究においては、マンガンイオン間距離が適当な値を有するマンガン(III)ポルフィリン二量体を水の共存下で電気化学的に陽極酸化することにより触媒的に酸素発生が起こることを明らかにした。この反応においてMn(V)(=O)二量体あるいは電気的に等価なMn(IV)-O-O-Mn(IV)が中間体として推定されている。一方、同じマンガン二量体は過酸化水素の効率的な不均化触媒としても有効であることが明らかとなっている。その反応において活性な中間体としてMn(IV)(OH)あるいはMn(IV)(=O)が推定されている。 そこで、本年度はこのような反応の詳細を明らかにすることを目的として、それぞれの中間体として考えられる高原子価マンガン[Mn(IV)またはMn(V)]ポルフィリン二量体を化学的に他の方法で安定に生成し、その挙動と性質を明らかにすべく研究を進めた。まず、マンガンイオン間距離が4Å付近の値を持つ1,8-アントラセンあるいは1,2-フェニレン結合マンガンポルフィリン二量体を次亜塩素酸あるいは過酸により酸化することによりMn(IV)(OH)(OMe)あるいはMn(IV)(=O)二量体の合成、同定、単離に成功した。この錯体はいずれも熱的に不安定であり、Mn(IV)特有のESRシグナルを示した。これらの錯体の過酸化水素との反応を速度論的に検討した。低温での反応速度よりいずれの二量体も1分子の過酸化水素と反応していることが明らかとなり、かつMn(IV)(OH)(OMe)体による還元速度は過酸化水素の不均化による酸素発生速度よりはるかに大きく、これまでの反応機構論的推察と良く一致することが見いだされた。一方、-80℃程度の低温でMn(III)ポルフィリンの過酸酸化を行うとMn(V)錯体が生成できることも明らかとなり、水の4電子酸化における活性中間体として有望であることが明らかとなった。
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