研究概要 |
申請者は多架橋[3_n]cyclophaneを配位子とする希土類を含む前周期遷移金属の新規π-アレーン錯体を合成して、その分子構造、金属の電子状態、酸化還元挙動等の基礎的な物性を明らかにし、これら新規錯体を有機物の還元反応に応用する研究を行っている。 今年度は次のテーマについて研究し、次のような研究成果を得た。 (1)Bisbenzenechromium(0)が触媒するアセトフェノン類のaldol縮合反応 SmI_2は優れた一電子還元剤であり、例えばアセトフェノンはケチルラジカルを経由して二量化しピナコールに変換される。π-アレーン錯体の母体化合物であるbisbenzenechromium(0)1も容易に電子を放出して1価のラジカルカチオンになることが知られているので、一電子還元剤としての性質を期待してアセトフェノン類と反応させた所、予想に反して1はアルドール生成物を与える事が明らかになった。1はアルドール反応の触媒として働き、クロスアルドール反応も可能である。この反応はルイス酸を用いる既知の方法に比べると収率は低いが、触媒的な反応である事と、操作が容易である事が利点である。現在、反応機構を詳細に調べている他、1の他の反応への展開を計っている。 (2)多架橋[3_n]シクロファン類をπ-配位子とする新規Ru^<2+>およびFe^<2+>錯体の合成とその酸化還元挙動 新規電導体・強磁性体としてシクロファンと金属が交互に結合した高分子を選び、まずそのサブユニットである多架橋[3_n]cyclophane(n=2,3,4)とRu^<2+>との単核錯体、およびFe^<2+>との二核錯体を合成した。また、Ru^<2+>錯体の酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリーで測定した。Ru^<2+>→Ru^0の可逆的な酸化還元反応は一段階で進行し、生成したη^4-Ru^0錯体は比較的不安定で一部電気化学的に不活性な化学種に変化すると考えられる。n=2,3,4の順に還元波が負の方へシフトすることから配位子の架橋鎖が増えるにつれて錯体が安定になることが分かった。従って、目的の高分子の配位子としてはより架橋鎖の多い方が適していると結論された。
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