研究概要 |
複数の遷移金属錯体ユニット間をπ共役鎖で連結した多核錯体系は、金属サイト間の電子及びスピン相互作用のために、興味深い電子、光、磁気物性を発現する。したがってπ共役鎖が十分長くなれば、‘導電性高分子錯体'と呼べる機能性物質群を形成することが期待される。この観点から、本研究では、2核から多核にわたる幾つかのπ共役錯体について、特に混合原子価状態における金属-金属電子相互作用に関する研究を分光電気化学手法を用いて行った。 フェロセンの共役二量体BFDの誘導体、[Fe_2(C_<10>H_8)(C_<10>H_7CCl=CHCHO)](1)の電解重合膜をITO電極上に形成し、混合原子価状態、BFD^+におけるITバンドとComproportionation constant, K_cに及ぼす対イオンの効果について検討した。その結果、ITバンドは殆ど電解質アニオン(対イオン)の種類に依らないが、K_cはイオン対形成の違いによって、HSO_4^-<ClO_4^-<BF_4^-<PF_6^-の順に増大することが明らかとなった。この結果は、金属間の電子非局在化の大きなclass IIIの特徴といえる。 共役環状三量体[Co_3Cp_3(S_6C_6)](Windmill complex, 2)の二つの混合原子価状態(Co(III)Co(III)Co(II)およびCo(III)Co(II)Co(II))におけるITバンドとK_cに及ぼす対イオンの効果について検討した。その結果、K_cは電解質カチオン(対イオン)及び溶媒の種類に大きく依存し、その依存性は溶媒和イオンの大きさと強い相関を示した。また2^-および2^<2->のITバンドから見積もられるmixing coefficient, αも溶媒和対イオンサイズの増加とともに大きくなり、class II錯体の特徴を示した。 その他、π共役有機金属高分子錯体や電解重合ルテノセン薄膜の研究を行った。
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