研究概要 |
本研究では、トリフルオロメチルケトンの特性に着目し、電解系で一電子還元活性種を発生させ、これを利用した有機合成反応の検討、および電気化学的なデータをもとに反応機構の検討を行った。具体的には、トリフルオロメチルケトン体1とアクリル酸エステル2の交差電解カップリング反応をモデル反応として検討した。電解は、単一セル中、トリフルオロアセトフェノン1a(100mg,0.53mmol)、アクリル酸t-ブチル2a(0.4mL,2.65mmol)および支持塩としてEt_4NOTs(300mg)をジメチルホルムアミド(5mL)に溶かし、2枚の電極(1.5×0.3cm^2)を用いて定電圧下(10V)通電を行った。電極の効果について精査した結果、溶出電極、特に、亜鉛電極が良いことがわかった(収率64%)。 本反応の反応機構は、3種類考えられる。すなわち、トリフルオロメチルケトンが一電子還元され反応が進行するもの(PathA)、あるいはアクリル酸エステルが一電子還元され反応が進行するもの(PathB)。または、その両者の組合わせにより進行するものである(PathC)。このことを解明するために、トリフルオロアセトフェノン1a、アクリル酸t-ブチル2aおよびそれらの1:1混合物のサイクリックボルタメトリー測定を作用電極に金電極、対極に白金線、参照電極に飽和カルメロ電極を用い、0.1Mn-Bu_4NBF_4を含むDMF電解液にて行った。その結果、この系でトリフルオロアセトフェノン1aは、-1.35_v(vs.SCE)で一電子還元され、アクリル酸t-ブチル2aより先に還元されることがわかった。また、トリフルオロアセトフェノンの一電子還元体がジアニオン体になる(-2.42_v(vs.SCE)前にアクリル酸t-ブチル2aが一電子還元されることがわかった(-2.24_v(vs.SCE))。さらに、溶出電極は、反応系内に陽イオンとして溶出し、陰極で生成するアニオンラジカル種と相互作用することにより、ラジカル種の安定化に寄与するものと考えられる。 以上のことから、亜鉛などの溶出電極を用いるトリフルオロメチルケトン1とアクリル酸エステル2の交差電解カップリングは、PathCを経由して反応が進行するものと考えている。
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