研究概要 |
先に筆者らは、市販の光学活性ビナフトール(BINOL)と(i-PrO)_2TiCl_2とから、モレキュラシーブ4A存在下にin situに調製したキラル錯体Aが優れた不斉触媒となることを報告した。これに対し、本研究では、“入手容易なキラル錯体の化学修飾(“進化")によって種々の不斉触媒種を創製する"というコンセプトに基づいて、市販の(i-PrO)_4TiとBINOLとから極めて容易に調製できる(この時MS4Aは不要!)キラル錯体Bを不斉触媒前駆体に用いて、これを化学修飾して種々のキラル錯体種(“第2世代BINOL-チタン錯体")を生成させ、それらを不斉触媒に用いて種々の不斉触媒反応を開発することを目的とし、検討した。不斉触媒シアノシリル化反応:昨年度の報告において、キラル錯体Bを不斉触媒前駆体とするアルデヒドのMe_3SiCNによる触媒的シアノシリル化反応が不斉収率72〜75%ee,化学収率90%以上で得られることを報告した。そこで、本年度は、不斉収率の向上をめざして、種々の配位子を持つキラルチタン錯体を合成し、シアノシリル化反応を検討した結果、これらのいくつかはキラル錯体Bそれ自体よりも高い触媒活性を示したが、錯体B当初予期した“BINOL-Ti(O-i-Pr)CN"ではなくて“BINOL-Ti(CN)_2"である可能性が最も高いことが明らかとなった。アルデヒド/ジエチル亜鉛付加反応の不斉触媒化:筆者らは、上記のキラルチタン錯体Bを不斉触媒(前駆体)とするアルデヒドの不斉アルキル化反応について検討した。その結果、10mol%の(S)-BINOLと1.2当量の(i-PrO)_4Tiを共存させ(ここでキラルチタン錯泰Bがin situに生成する)、ベンズアルデヒドと3当量のEt_2Znをトルエン中,0℃で反応させると、対応するアルコールが最高85%ee、収率97%で得られることを見出した。この時、不斉収率は反応率と無関係に一定であったことから、途中に生成する第2世代ビスアルコキシ-チタン錯体は不斉触媒として全く関与しないことが分かった。また本反応では“不斉増幅現象"は全く見られなかった。ここで見いだされた不斉触媒系は、脂肪族アルデヒドとの反応にも有効で85%ee程度の不斉収率が得られた。
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