研究概要 |
メタラジチオレンは遷移金属原子のd軌道を含んだ6π共役電子系を持つ特異なメタラサイクルであり、その芳香族性が指摘されてきた。しかし、その芳香属性を反応性の面からの研究はほとんどなかった。本年度の研究では、メタラジチオレンの芳香族性をラジカル置換反応によって検討した。共役キレート環におけるラジカル置換反応は初めての発見であり大きな意義を持つものと考える。 (1)メタラジチオレン環の水素は2, 2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)およびその誘導体から発生するラジカルによって置換されることを見出した。この置換反応は、ビスジチオレン型のニッケラジチオレンにおいても、シクロペンタジエニルジチオレン型のコバルタジチオレンのいづれにおいても起こる。この置換反応がラジカル機構で進行することは、ラジカル捕捉剤のTEMPO (2, 2, 6, 6-tetramethylpiperidine-N-oxyl)によって反応が阻害されることによっても解る。また、この置換反応にとって環の芳香族性(共役)が必要な条件であることは、S, Sを架橋して共役を切ると起こらなくなることで解る。 (2)過酸化ベンゾイルおよびN-ハロスクシンイミドとの反応では珍しい型の置換反応を発見した。過酸化ベンゾイルとの反応では、メラタジチオレン環でのベンゾイルオキシ化が起こる。さらに、N-ハロスクシンイミドとの反応は、期待されるハロゲン化は殆んど起こらず、ジチオレン環のカップリング、スクシンイミジル基による環水素の置換が見出された。これらの反応はイオン機構で進行するものと思われる。
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