研究概要 |
中性子捕捉療法による癌治療薬の創製を目指して,安定なホウ素クラスターであるオルト-カルボランを有機構造に如何に組み込むかを検討した。オルト-カルボランには炭素-炭素結合生成に利用できる2つの炭素原子がホウ素クラスター内に存在するが,従来までは,そのうちの1つに有機部位を導入した分子のみの合成がほとんどであった。その合成的要因を解明し,有用な有機部位を2ヵ所に組み込むための合成戦略をいくつか開発することにより,より自由度の高い癌治療薬の分子設計の可能性を広げた。まずパラジウム触媒反応による中性条件での初めての炭素-炭素結合生成反応をオルト-カルボランに行ってきたが,最近ではそれを応用しヌクレオシドと水溶性部位を組み込んだオルト-カルボラン誘導体の合成をデモンストレートした。また,官能基を有する有機ハロゲン化物をオルト-カルボランリチウム体と反応させ,その際に官能基特異的にハロゲン化炭素にのみ炭素-炭素結合生成が起こるという,通常の有機リチウムとは異なるオルト-カルボラン特有の反応性を示した。更にオルト-カルボランのケイ素道入体にフッ化4級アンモニウム塩を用いると,アルデヒドへ付加反応が起こることを見出し,新規な中性条件での炭素-炭素結合生成反応が起こることがわかった。以上のように中性子捕捉療法において,重要性のあるオルト-カルボラン誘導体合成に現在3つの有効な変換反応を行うことができるという成果をまとめることができた。
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