ガウス基底関数を用いた大規模緊密結合法により、多価イオンと原子の衝突における電子状態遷移の断面積を計算した。水素原子と多価イオンとの衝突においては、ヘリウムから酸素に至るすべての裸イオンに対して原子側、イオン側の両方に多くの連続状態を結合させて連立微分方程式を解いた。励起、電離、電荷移動の諸過程のすべての断面積を統一的にかつ矛盾なく求める現在で唯一の手法であることが実証され、それぞれの実験値とすべてのエネルギー領域にわたってきわめて良い一致を見て、核融合に必要な素過程の信頼できる断面積として、データベースの作成に寄与した。更に、2電子系に独立電子モデルを採用し、モデルポテンシャルの導入により、ヘリウム様のイオンとイオンの衝突断面積を計算した。最近、米国のカンサス州立大学の実験グループによって、低エネルギーでの電離と電荷移動の断面積及びその確率の衝突計数依存性が測定されたが、我々の計算はその実験値を見事に説明し、2電子系に対してもきわめて有効な手法であることが示された。特に、衝突速度が電子の平均速度を超えるあたりから電子断面積が急激に増大する傾向は、相対値のみならず絶対値においても正しく実験値を再現している。この手法の有効性を実証したことから、広く種々の過程に対して解析を行い精密なデータを提供することを計画し、電離、電荷移動、励起を伴う電離及び電荷移動の断面積をリチウム、ベリリウム、ボロンのイオンに対して網羅的に計算を行い、Phyica Scriptaに投稿した。
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