研究概要 |
1.目的及び研究方法 絶縁体表面におけるクーロン爆発の有無を調べることを目的として、Ar多価イオンを金属表面(Al)と絶縁体表面(Al_2O_3)に衝突させた場合のスパッター粒子からの発行スペクトルのドップラー幅を測定した。スペクトルのドップラー幅を測定するためには、波長に対して高分解能な測定方法が必要である。このため、当初は分光器内部にファブリーペロ-エタロンを挿入し、光の干渉効果を利用して分解能を上げる予定であった。しかし発光が微弱で十分な透過光強度が得られないと判断し、分光器のスリット幅を30μm〜50μmと狭めることによって測定することにした。 2.結果 (1)Ar^<6+>(60keV)をA1表面とAl_20_3表面に当てたところ、以下のような発光スペクトルが得られた。 Al標的の場合→Al(3d^2D-3p^2P:308,309 nm),Al(4s^2S-3p^2P:394,396 nm),CH^+(A^1Σ^+-X^1II:390-430 nm),CH(A^2△-X^2II:420-440 nm),H_α(656 nm) Al_2O_3標的の場合→AlO(C^2II^r-X^2Σ^+:300-360 nm),Al(4s^2S-3p^2P:394.396 nm) (2)Ar^<q+>(q=1〜9:q×10 keV)をAl表面とAl_2O_3表面に当てたときにスパッターされたAl原子の4s^2S_<1/2>3p^2P_<3/2>(396nm)線のドップラー幅から、その表面に平行な方向の速度を求めたところ、標的・価数(q)によらずほぼ一定の1.5×10^4(m/s)が得られた。 3.まとめ Ar多価イオンとAl,Al_2O_3表面との衝突により、表面からスパッターされたAlやAlOの発光スペクトルが観測された。また、Alの共鳴線のドップラー幅を測定したところ、標的および入射Arイオンの価数によらずほぼ一定の値になった。スパッターされたイオンの発光が観測されなかった点、ドップラー幅が標的・価数に依存しない点から、今回の実験条件下ではクーロン爆発は現象は存在したとしても、顕著ではないと考えられる。
|