研究概要 |
地球上の一般的な状態の下では、原子核状態の寿命は非常にはっきりした物理定数である。しかし原子が非常な多価イオンになった裸イオン極限状態では、原子核状態の寿命が変化し、不安定原子核状態が安定になる場合がありうる。理論的には、1)電子捕獲による崩壊の禁止、2)束縛状態β^-崩壊の可能性、3)内部転換電子放出の禁止、4)束縛状態対生成の可能性、の四種類の効果が予想されている。 本研究の最終目標は、多価イオン生成蓄積装置EBITを使い、3)の効果を見つけることにある。しかしここでは、それに至る段階として、ドイツGSI研究所で共同実験として行った1)の効果について解析をすすめたので、その結果について述べる。 核子当り200MeV程度の高エネルギーで生成される原子核は、ほとんど裸イオン極限状態になっている。重イオンシンクロトロンSIS及び破砕核分析装置FRSで作られた不安定核裸イオンは、蓄積リングESRにおいて約2日間蓄積され、その崩壊の様子が、ショトキ-検出器によりイオン数の変化を追いかけることにより調べられた。調べられたのはN=Z核で、一般的な状態の下では100%電子捕獲崩壊をする^<56>Ni,^<48>Cr,^<44>Ti、電子捕獲崩壊とβ^+崩壊の混ざる^<52>Fe、及び安定核^<40>Ca,^<36>Arであった。解析の結果、本来100%電子捕獲崩壊をする核には、裸イオン極限状態核における電子捕獲による崩壊の禁止の効果により、安定な原子核と同様にあたかも無限大の寿命を持つように振る舞った。また電子捕獲崩壊とb^+崩壊の混ざる^<52>Feにおいては、電子捕獲による崩壊の禁止の効果の分だけの寿命の伸びが観測された。 このように宇宙の初期状態や、プラズマ状態にある星内部における裸イオン極限状態にある原子核状態の崩壊の様子の一端を研究することに成功した。
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