研究概要 |
角度分解型トンネル分光(ARTS)の基本原理である横方向波数保存則を検証し,ARTSを現実の系について実証していくことを目的として研究を行った。今年度は層状構造物質であるTiSe_2のCDW状態についてARTS測定を行なった。 遷移金属ダイカルコゲナイドの一つであるTiSe_2は,約200Kで2×2構造をもったCDW状態へ転移する。このCDW相の電子状態はCDWに伴うエネルギーギャップ構造をもつことが知られているが,TiSe_2ではそのギャップ構造がc軸に垂直な面内で強い異方性をもつことが,これまでに角度分解型光電子分光により観測されている。我々はこのような異方的な電子状態をARTS測定により観測した。 平行に対向させた二つのTiSe_2単結晶へきかい面の面内結晶軸の相対角0°におけるトンネルスペクトルはギャップ幅が約1eVで,ギャップ端にピーク構造を伴ったCDWエネルギーギャップを示した。これは我々が過去にAl/Al_2O_3/TiSe_2構造で行った通常のトンネル分光で得られたトンネルスペクトルに対して,トンネル電流に対する通常の表式から求めたスペクトルによってよく再現できる。相対角が増すにしたがってギャップ幅は増大し,ギャップ端のピーク構造がブロードになる傾向が観測されたが,相対角60°では,再び0°のスペクトルとほぼ同様なスペクトルが観測された。このようなスペクトルの変化はc軸に対して6回対称性をもつ2次元的なバンドモデルと,横方向波数保存則が成り立つと仮定したモデル計算から得られたトンネルスペクトルにより定性的に説明することができた。このことにより,横方向波数保存則の妥当性と,ARTSが異方的電子状態の研究手段として有用性であることが示された。
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