(1)研究の背景と目的:誘電率が周期的に変化する物質(フォトニック格子)中では、電磁モードの存在しない周波数領域(フォトニックバンドギャップ)の出現やこれに伴う自然放出の抑制、さらにはギャップ内局在モードの生成等、これまでに無い光学特性が予測され、その一部は実証されつつある。工学的応用としては、局在準位を利用した単一モード発光ダイオードが低雑音、高効率、高コヒーレンスといった特徴を持つことが予測され、その実現が期待されている。フォトニック格子の光学特性については、筆者の行った透過スペクトルの理論計算、および、群論による固有モードの対称性の分類から、バンドギャップと非結合モードに由来する不透明領域の存在が示され、実験的にも確認された。これらの光学特性を基礎として、フォトニック格子中の誘導放出等の量子光学特性の解明が期待される。その第1段階として、平成7年度の研究では、フォトニック格子中に誘起された振動分極からの輻射場の定量的計算法を開発した。 (2)研究成果:まず、2次元フォトニック格子について、振動分極を非斉次項とするマックスウェルの波動方程式の一般解をグリーン関数法を用いて導出した。非斉次項として2次の非線型感受率により誘起された分極を採ることにより、フォトニック格子中における和周波発生過程を定式化し、一般化された位相整合条件と選択則を導いた。また、バンド端の異常に遅い群速度に起因する非線型光学過程の増強効果を明らかにした。さらに、平面波展開法による固有モードの分散関係と固有関数の計算に基づいて、モデル格子からの和周波光強度を数値的に求めた。次に、グリーン関数法を3次元格子に拡張することにより、各種非線型光学過程のみならず、孤立振動双極子からの輻射や、自由誘導減衰等のコヒーレント光学過程が定式化できた。これにより、所期の目的であるフォトニック格子中の誘導放出等の理論的解析も可能となり、平成8年度にはそれを実行する予定である。以上の成果は2報の論文にまとめて投稿中である。
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