研究概要 |
酸素中のピリドキサール5'ーリン酸(PLP)のシッフ塩基は,通常340nm付近と420nm付近に吸収極大を持ち,それぞれエノールイミン型(E),ケトエナミン型(K)である.今回はPLPシッフ塩基のモデル化合物として,0.1mMPLPと10mMプロピルアミンを混合して得たPLP-プロピルアミンシッフ塩基を検討した. E型をナノ秒レーザー光(347.2nm)で励起すると,過渡吸収スペクトル(λmax=460nm)が励起直後から観測される.過渡吸収強度の減衰寿命は20%エタノール-80%ジオキサン中では280ナノ秒,100%エタノール中では70ナノ秒と溶媒によって異なる.K型をフェムト秒レーザー光(398.0nm)で励起すると過渡吸収スペクトル(λmax=470nm)が励起直後から観測される.この場合の過渡吸収強度の減衰寿命は25ピコ秒と6ナノ秒の2成分である.PLP-プロピルアミンシッフ塩基のE型およびK型のいずれを励起しても約530nmに極大を持つブロードな蛍光スペクトルが得られる.蛍光減衰は寿命30ピコ秒と7.1ナノ秒で,フェムトレーザーによりK型を励起したときに得られる470nmの過渡吸収の寿命とほぼ一致してる. 以上の結果より,我々は以下のように現段階では考えている.すなわち, (1)蛍光状態はK型の励起状態K^*である. (2)K型の励起によって得られる過渡吸収(λmax=470nm)はK^*の吸収である. (3)E型の励起状態E^*とK^*とは非常に速い平衡状態にあると予想される. (4)E型の励起によって得られる過渡種(λmax=460nm)は,PLPの光反応ダイナミックスのスキームのどこにくるかは不明である.
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