研究概要 |
低温アルゴン固体中の試料(CH_3CH=CH_2・・・NO_2)にレーザー光を照射すると,二酸化窒素が^2B_2という電子励起状態に励起され,酸素原子がプロペンの炭素原子に移動して,オキシランビラジカルと一酸化窒素が生成した.オキシランビラジカルと一酸化窒素は低温アルゴン固体中で再結合してニトリトラジカルを生成した.ニトリトラジカルはレーザー光を吸収して,ふたたび一酸化窒素を解離してオキシランビラジカルを生成し,オキシランビラジカルは環化してエポキシドが生成した.反応中間体であるニトリトラジカルとしては,CH_3CH(ONO)-CH_2(構造I)またはCH_3CH-CH_2ONO(構造II)の可能性がある.エチルラジカルの振動解析の結果とメチルニトリトの振動解析の結果を参考にして,それぞれの力の定数および構造定数をニトリトラジカルに転用し,構造Iおよび構造IIのニトリト基に関する振動数を計算した.その結果,N-O伸縮振動の計算値は,構造Iでも構造IIでもともに1654cm^<-1>となり,差がなかった.一方,O-N伸縮振動の計算値は構造Iが804cm^<-1>,構造IIが770cm^<-1>となった.実験では,770cm^<-1>に強いピークが観測されているので,ニトリトラジカルは構造IIの可能性が強いと結論した.すなわち,二酸化窒素はプロペンのメチル基のついていない炭素原子を攻撃すると考えられた.50%の酸素を同位体^<18>Oで置換した二酸化窒素を用いた実験では,O-N伸縮振動に対応する幅の広い1本のピークが762cm^<-1>に観測された.振動解析の結果,これは4種類の同位体種のピークが重なっていると解釈できた.1種類のニトリトラジカルの構造に対応するスペクトルのみが観測されたことから,低温アルゴン固体中でプロペンと二酸化窒素は光照射によって選択的に配向することがわかった.
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