研究概要 |
光反応を高い効率で進めることができる固体表面反応場の設計を目的として、水の分解反応に対して優れた光触媒となるトンネル構造を持つ金属酸化物において、トンネル空間場がどのような役割を果たすかを明らかにするため、トンネル構造および非トンネル構造のTi酸化物の光触媒能を比較し、さらに光励起による電子と正孔の分離および電荷伝達機構をESR法によって調べた。トンネル構造をもつTi酸化物として、Pentagonal-prism型トンネル構造のBaTi_4O_9(以下BTOと略す)およびRectangle型トンネル構造をもつNa_2Ti_6O_<13>(NTO)、また非トンネル構造の酸化物として、Ba_4Ti_<13>O_<30>,Na_2Ti_3O_7,およびTiO_2を焼成法により作製した。酸素存在下77Kでの光照射(500W Hgランプ)により、BTOでは、g=2.018およびg=2.004に強いESRシグナルが観測された。NTOのESRスペクトルにおいては、上述のシグナルに加えg=2.020にシグナルが出現した。これらのピークは、格子酸素のO^-に帰属された。一方、Ba_4Ti_<13>O_<30>およびTiO_2では、特徴的なシグナルは観測されなかった。O^-の生成は、格子酸素O^<2->から電子の移動を意味しており、トンネル構造内では光励起電子と正孔の分離が効率よく起こることを示した。光触媒活性とO^-生成の波長依存性の両者がよく一致し、O^-の生成に関わる光励起電荷の発生が、光触媒能の発現と密接に関連することが示された。BTOおよびNTO酸化物に対するラマンスペクトル解析は、構成単位であるTiO_6八面体には短いTi-O結合が存在することを示した。このため八面体は歪み、内部に双極子モーメントが発生し、その方向はトンネルの中心を向く特徴を示した。非トンネル構造で無分極場の酸化物(TiO_2、Ba_4Ti_<13>O_<30>等)では光照射によりO^-は全く生成しないことから、この分極場が光励起電荷の分離に有効作用することが明らかとなった。
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