研究概要 |
DNAとタンパク質との複合体形成は、生体内での遺伝情報伝達のさまざまな過程で重要な役割を演じている。したがって、それら複合体の形成機構や構造を明らかにすることは、遺伝情報発現や制御機構の本質的な理解を深めるとともに特にその制御を人為的に行うための不可欠な知見を与える。DNA-タンパク質複合体の構造は、X-線結晶解析やNMRによる解析がすすめられいくつかの系でタンパク質によるDNAの特異的認識機構に対する理解が深まりつつある。このような状況のもと、DNA-タンパク質複合体をより簡便にモニターしその形成機構を詳細に理解するための新しい方法を開発することは重要な検討課題である。 本研究では、蛍光プローブを有効に活用してDNA-タンパク質複合体形成を解析する新しい方法の開発をめざす。ダンシル基を糖2'位に有するオリゴヌクレオチド誘導体に着目して研究を進める。このオリゴヌクレオチド誘導体の特徴は、近接したタンパク質中のトリプトファン残基より特異的にオリゴヌクレオチド誘導体中のダンシル基に蛍光エネルギー移動が起こると期待できることにある。この性質を有効に活用することによりDNA-タンパク質複合体形成の平衡解析とともにダイナミックスの解析に焦点を絞り検討を行う。 ダンシルアミノウリジンのホスホロビスアミダイ体をDNA自動合成機に適用可能なモノアミダイト誘導体に変更してダンシルDNAを得るための一般的方法を確立した。一方、本研究で用いるモデルDNA結合タンパク質としてHinのDNA結合領域である52アミノ酸残基のペプチド(Hood,L.E.;Steiz,T.A.et al.,Science1987,235,777)を選択し、その化学合成と修飾を開始した。このペプチドはDNAメジャーグローブ側に結合しN端に導入した官能基はDNA結合領域に隣接するマイナ-グローブに位置することが、修飾ペプチドによるDNA切断解析によって明らかにされている(Dervan,P.B.et al.,Biochemistry1992,31,9399)。さらに、このことは、X-線結晶構造解析により確認された(Dickerson et al.,Science1994,263,348)。したがって、このN端にダンシル蛍光発色団に対するエネルギー供与体(トリプトファン)あるいは受容体(フルオレセイン)を導入したペプチドを本研究の目的に応じて設計できることになる。現在、このDNA-タンパク質複合体について検討中である。
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