研究概要 |
先に筆者らは希土類触媒による不斉合成反応開発の一環としてEu(fod)_3を触媒とするキラルなα-ベンジルオキシアルデヒドとケテンシリルアセタールとの不斉アルドール反応を検討し、主生成物としてchelation-anti体が得られることを報告した。ここでみられたantiジアステレオ選択性はEu触媒反応特有の立体化学制御であり機構的に興味深く、合成化学的に価値がある。そこで本研究では、Eu触媒のこの“特異性"を明確にするために、種々のルイス酸(触媒量あるいは化学量論量)とケテンシリルアセタールを用いて、α-ベンジルオキシアルデヒドとのアルドール反応を広範囲に行い、得られたchelation生成物のsyn/anti比を調べた。その結果、(1)Eu触媒は、他のルイス酸に比して、最も高い“異常な"anti選択性を与える(一つの例外を除いて)、(2)ケテンシリルアセタール中のG基がアルコキシ基の時、すべてのルイス酸(MgBr_2を除いて)が“異常な"anti選択性を示し、Eu触媒反応では、ほぼ完璧なanti選択性が達成される、ことが明らかとなった。このEu触媒アルドール反応では、通常のantiperiplanar遷移状態よりも“異常な"synperiplanar遷移状態が有利となって、“異常な"anti選択性が得られたと解釈される。さらに、Eu触媒不斉アルドール反応における触媒/基質間の配位様式の立体化学と分子認識に及ぼす効果を明確にするために、α-ベンジルオキシアルデヒド(A)とグリセルアルデヒドアセトニド(B)間及びBとα,β-ジベンジルオキシアルデヒド(C)間との競争的Eu触媒反応を検討した。その結果、次の諸点が明らかとなった。(1)Eu触媒のアルデヒドへの配位のしやすさ(活性化の度合)は、C(三座配位)>B(三座配位)>A(二座配位)の順である。(2)アルデヒドBからのアルドール生成物では、もはや2,3-anti選択性は見られず、高いsyn選択性が見られた。(3)これに対して、アルデヒドCからのアルドール生成物では、再び高い2,3-anti選択性が見られた。以上の結果から、Eu触媒のアルデヒドへの配位様式は、アルデヒドの保護基の種類によって異なり、その配位様式がこの反応における分子認識と立体化学を決定する主要因であることを明らかにした。
|