研究概要 |
本研究は細胞内情報伝達反応としての脱リン酸化反応(ホスホモノエステラーゼ活性)に焦点を絞り,生体内で活躍しているリン酸化アミノ酸)の脱リン酸化反応を希土類を使って試み,希土類による生体機能調節の可能性を検討した.ホスホモノエステラーゼ活性についてCe^<4+>:L=1:1系ではホスホセリンはほぼ,ホスホチロシンは1/3が反応し,フィチン酸はほとんど反応しないといった大きな構造依存性が見出され,生体機能調節の可能性が示唆された.この反応はCe^<4+>の溶解直後が最も活性であった.反応活性種をエレクトロスプレーイオンマス(ESI-MS)によって検出することに成功した.すなわち,ポジティブモードCe^<4+>の溶解直後にはCe(OH)_2(NO_3)に相当する分子量が観察された.一方,Ce^<4+>-ホスホセリン系ではCe_2(OH)_4(PO_4)が反応中間体として検出され,最終生成物はCe^<4+>-セリン系と同じであったことから,脱リン酸反応はモノマーであるCe(OH)_2(NO_3)がホスホセリンのリン酸部位に2個結合し,オレーションに伴うCe^<4+>複核錯体形成と同時に脱リン酸化が起こるものと推定された.反応の可否をにぎっているのはリン酸複核錯体の形成であり,複核錯体の形成されやすさが反応の構造依存性を決定していることが明らかにされた.反応不活性な金属イオン(Ca^<2+>,Mg^<2+>,K^+,Na^+)についてpH滴定により形成される錯体種を明らかにしたところ,複核錯体が形成されないことが判明した.従って,複核錯体形成により脱リン酸化反応が進むという観点から金属イオン特異性,リン酸含有化合物の構造依存性ともに説明できることが明らかになった.反応機構の解明により,情報伝達物質の脱リン酸化によって情報伝達を制御する可能性が開かれた.
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