研究概要 |
アントラキノンに金属配位部位としてクラウンエーテル(ant-crown)、糖(ant-D/L-glc)を導入したコンジュゲートをそれぞれ合成した。La^<3+>共存下、ant-crownの濃度増加に対応してDNAの切断が促進された。対照化合物(ant-OMe)との比較から、ant-crownのクラウン環の効果が明らかであった。ant-crown、ant-OMe単独でも若干ではあるが切断効果が観測されるが、これにLa^<3+>を添加するとant-OMeでは、La^<3+>のみの活性との単なる和の効果にしかならないが、ant-crowuにおいては相乗効果がみられた。ant-D/L-glcについても同様の実験を行った結果、やはり、添加によって切断が促進された。この場合は、ant-D/L-glc単独でかなりの切断活性があるが、やはり、La^<3+>添加によって相乗的に活性が増大していることが分かった。 前年度までの研究により、希土類金属はこの濃度範囲では、ほとんど定量的にDNAに結合することが分かっている。即ち、インターカレータのない条件下でも、La^<3+>のほとんどはDNAに結合していることになる。従って、ここで観察されたDNA切断の促進効果は金属結合性DNA配位子による希土類金属イオンのDNA近傍への濃縮によるものとは考えにくい(実際、水中でのクラウンエーテルや糖の希土類金属捕捉能は非常に低い。)。インターカレータコンジュゲートの結合によりDNA骨格は歪みを受ける。切断反応に対して恐らくlabileになったこの部分に、DNAの他の部分よりも僅かに濃縮されたLa^<3+>が作用して、その加水分解を加速したと考えることができる。 また、ant-D/L-glcの場合には単独でもかなりの切断活性が見られた。これにはヒドロキシル基の関与の可能性を考えている。実際、有機リン酸エステルの加水分解において、ポリオールと希土類金属が協同的にはたらくことが報告されており(H.-J.Schneider,er al.,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,32,1716,(1993))、本系においても同様の機構が存在するか否かに興味が持たれる。
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