研究概要 |
多くの希土類イオンの錯体において、錯体は水分子を含む高い配位数をとることが知られている。しかし希土類イオンのイオン半径は周期表の右側に行くほど小さくなり、配位数も幾らか減少する。本研究では19-クラウン-6とビスピラゾリルボレートを同時に配位させた希土類イオン錯体の単離およびその性質についての知見を得ることを目的とした。この型の錯体を合成する前に、まず希土類イオンの18-クラウン-6錯体について調べた。本研究で用いた希土類イオンとしてイオン半径の大きいランタンLa(III)とイオン半径の小さいイットリウムY(III)とルテチウム(III)を選んだ。興味あることに、これらイオンはクラウンエーテルの空孔の大きさに比べかなり小さいにもかかわらず、いずれも1:1錯体を形成し、アセトニトリル溶液中では錯体はフリーなクラウンエーテルとは交換しないという結果を得た。目的とする18-クラウン-6とビスピラゾリルボレートとを同時に持つ錯体[M(BH_2(pz)_2)_2)(18C6)](Tfo)_2の合成は、希土類イオンのトリストリフラート塩M(Tfo)_3とトリス(ビスピラゾリルボレート)希土類錯体M(BH_2(pz)_2)_3の1:2混合物に18-クラウン-6を反応させることにより行った。希土類イオンに配位したビスピラゾリルボレート配位子は極めて加水分解を受けやすく、原料錯体および溶媒の脱水細心のに注意を払う必要があった。現時点ではベンゼン等芳香族溶媒が錯体合成に最も適していると思われる。この方法によりM=Laの場合は目的とする錯体と単離することができた。この錯体の^1H NMRスペクトルにおいて18-クラウン-6のエチレンシグナルが磁気的に等価ではないという、非常に興味ある結果を得た。この錯体は極めて加水分解を受けやすく、容易にヒドロキソ錯体[La(18C6)OH](Tfo)_2になることが明らかになった。この錯体においても18-クラウン-6のエチレンシグナルは磁気的に非等価となり、LaイオンにOH基および18-クラウン-6が共に配位していることが明らかになった。イオン半径の小さいM=Y, Luでは目的とする錯体は得られなかった。
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