研究概要 |
CHCl_3を溶媒とする液-液2相のもとで、H_2O_2-Ln(III)W10の酸化触媒活性を測定した.その結果,前年度に報告したCe(IV)W10に比べ,Ln(III)W10においてはいずれもH_2O_2の自己分解が抑制され,酸化活性が極めて高くなることが解った.反応初期0.5時間での結果にはLn間での顕著な差違が見られる.特に中希土から重希土類元素にかけての活性序列に,前年度に報告したLn-O-W結合に基づくRaman伸縮振動の変化とのよい対応関係が認められる.軽希土類元素側での対応は劣るものの,この対応関係は触媒作用へのLnの4f^n電子の関与を示唆するもので興味深い. 基質として1-オクテン-3-オール(4mmol)を選び,CHCl_3(1.5ml),触媒(0.02mmol),H_2O_2(6.6mmol)を加え,液-液2相条件下で反応を行い,エポキシ/ケト選択性を検討した.反応初期4-5時間におけるエポキシ/ケト比を測定した.この比率は反応温度を70℃,50℃,30℃と下げると,全体的に向上することが認められた.Ln間での差違が最も顕著に現れた30℃における結果について,比較するためにLn(III)のイオン半径を目盛ると、Ce(III)およびEu(III)W10において高い値を示すが,全体的にエポキシ/ケト比はLn(III)イオンの収縮につれて低下する傾向が認められた.これは反応機構と関連して興味深い. 以上の通り、分光学的パラメータとH_2O_2-Ln(III)W10の酸化触媒活性の間に興味深い相関関係が認められたが,今後Ln(III)の4f^n電子の化学作用を明らかにする上で重要な手がかりを与える事実と考えている.
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