アルカロイドの合成などにも広く利用されているエナミドおよびチオエナミドの光環化反応が結晶状態においても進行する事を明らかにした。種々のエナミド、チオエナミドについて検討した結果、反応が進行しないものも若干あったが多くの場合溶液中の光反応よりも高収率で、かつ高立体選択的に光環化がおこった。これらの化合物の結晶構造をX線解析によって決定し、結晶構造と結晶中光反応の反応性との関係をしらべたところ、反応性の高いもの、低いもの、および全く反応しないもの、いずれも反応によって新しく結合が生成する炭素間の距離は大差はなく、結晶中での分子の立体配座が反応性を決定しているのではない事が明らかになった。次にX線解析によって決定した原子の位置と、ファンデルワールス半径から、分子の結晶中での空間的餘裕(reaction cavity)をもとめた。その結果、反応性の高いものは比較的大きなreaction cavityを持つのに対し、反応性の低いもの、ないものはこれが小さく分子の変形がおこりにくい事が明らかになった。すなわちこれらの結晶中光反応の反応性は、結晶中での分子の立体配座が反応に適しているか否かによって決まるのではなく、まわりの分子によって形成されるreaction cavity中で原料から生成物への分子の形の変化がおこりうるか否かによって決まる事が明らかになった。
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