研究概要 |
本研究は新物質の探索を目的として、ドナー分子のtetrakis(methylthio)tetrathiafulvalen(TMT-TTF)を用いて新規銅錯体ポリマーを合成し、結晶構造解析により分子構造およびパッキングを明らかにし、これを部分酸化し、伝導機能を付与しすることを目的とした。 (1)まずCuIを用いて、TMT-TTFのMeS-基のSが四角形Cu_2I_2のCuに架橋配位した1次元鎖構造の錯体ポリマー[(CuI)_2(TMT-TTF)]_nを構築した。TMT-TTFのスタッキング方向のS・・・S間距離は3.75Åで弱いS・・・S接触があると考えられる。次にCuIをCuBrに変えて、2次元錯体ポリマー[(CuBr)_2(TMT-TTF)]_nを合成した。注目されることは螺旋構造を有するCuBr骨格のCuにTMT-TTFが架橋配位した2次元構造をとり、さらにTMT-TTFのスタッキング方向で伝導経路となるS・・・S接触(2.68Å)があり、2次元ネットワークが存在することである。最後に、CuClはジグザグ骨格を形成しており、この骨格の間にTMT-TTFが架橋配位した2次元シート構造錯体ポリマー[(CuCl)_2(TMT-TTF)]_nを構築した。興味あることに、2次元シート間でS・・・S接触(2.63Åと3.63Å)がありシート内ではS・・・S接触は存在しない。 (2)オレンジ色の[(CuX)_2(TMT-TTF)]_n(X=I,Br,Cl)はいずれも絶縁体である。これをヨウ素ドープにより部分酸化した黒色粉末{[(CuX)_2(TMT-TTF)]I_x}_nを得た。いずれもカチオンラジカル(TMT-TTF^<・+>)によるCT吸収帯を850nm付近に与え、TMT-TTFが部分酸化されたことを示している。黒色粉末をベレットにして、電気伝導度σ_<25℃>を測定したところ、10^<-1.7>Scm^<-1>(I)、10^<-2.1>Scm^<-1>(Br)、10^<-3.6>Scm^<-1>(Cl)を得た。以上、ハロゲン化銅(I)の骨格を利用することによって、伝導性を有する超構造錯体ポリマーの合理的設計が可能なことを明らかにした。
|