研究概要 |
濃度ゆらぎ・価電子ゆらぎ・非金属-金属転移(直流電導度10^<-1>〜10^4(Ωcm)^<-1>)が出現する複雑液体としてBiX_3+Bi(X=Cl, Br, I)溶液に注目した。その起源はビスマスクラスターとその前駆体のビスマス多原子イオンであるとの仮説をたてて研究をおし進めた。 ナノメートル寸法のビスマス多原子イオンBi_5^<3+>(D_<3h> symmetric trigonal bipyramid)を持つ化学量論的化合物 Bi_5(AlCl_4)_3を合成した(注1)。高温融体における全散乱高波数領域を含む飛行時間法中性子回折実験(1〜50Å^<-1>)から得た微分散乱断面積のデータの中で1.2Å^<-1>近傍に小さなピーク(注2)が観測された。重要な実験結果であっておおよそ4.5Åの大きさの多原子イオンから融体が構成されていることを示している。その大きさはBi_5^<3+>, AlCl_4^-のみかけの直径に対応している。さらに分子内構造パラメータを決定することによって、融体中においてもBi_5^<3+>が存在する事を明らかにした。そのイオン中のBi-Bi間最近接距離は3.2Å、結合数は6個であった。液体Bi金属のそれとは異なることがわかった。ビスマス多原子イオンの安定性が周囲に存在するAlCl_4^-によって増加することを分子力学計算から推定することができた。本Bi_5^<3+>の分子軌道とエネルギー準位、電子密度分布を ab initio法を用いて決定している(Glaser, Univ. Missouri Columbia, USAとの共同研究)。 多原子イオンの自己集合化で生成したビスマスクラスターの確認を冷中性子回折小角散乱(SAN:KEKブ-スター利用施設)から確認した0.025<Q/Å^<-1><0.055の領域の小角散乱に注目してLorentzian型構造因子として評価すると、ビスマスクラスター間の相関長ξは約70Åとなった。今後、SAN測定用の高温測定装置を作製してより精度の高い系統的な実験を平成8年度に行うことを計画している。 (注1)4Bi(99.999%)+BiCl_3(蒸留精製)+3ACl_3(単結晶)→Bi_5(AlCl_4)_3 (注2)FSDP: First Sharp Diffraction Peak
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