研究概要 |
一昨年より製作中であったトップロ-ディング式断熱型熱量計が完成した。その装置を用いて分子性結晶tri-O-menthyl-β-cyclodextrin(TMCD)の粉砕非晶化過程と構造エンタルピーの粉砕時間,温度依存性を調べた。また,1,3,5-Tri-α-naphthylbenzene(TNB)の熱容量を5-380Kの温度範囲で測定した。その結果,非晶性物質の特徴である低エネルギー励起の強度は,液体急冷試料より粉砕非晶化試料で大きいことが分かった。このことは,未解明の低エネルギー励起の起源が,非晶質固体の構造の乱れやひずみの程度の関係することを示唆している。 3-Bromopentaneのガラス,液体,結晶の熱容量を測定し,構造緩和時間と構造エントロピーの関係を調べた。また,I-Penteneガラスを蒸着法(蒸着温度40K)と液体急冷法の両方で作り,断熱法を用いてその凝集状態を熱力学的に特性化した。さらに,3-Methylpentaneガラスと1-Propanolガラスの熱容量およびエンタルピー緩和を高圧下(0-200MPa)で測定し,圧力依存性および圧力-温度平面内での熱履歴依存性について調べた。以上の3つの測定から,分子性液体,ガラスにおける構造エントロピー理論(Adam-Gibbs理論)の正当性を定量的に証明した。 1-Buteneガラスおよび3-Methylpentaneガラスの中性子非干渉性非弾性散乱スペクトルを高エネルギー物理学研究所のLAM-40分光器で測定し,これらの低分子分子性ガラスでは,これまでに測定されてきたシリカガラスなどよりはるかに大きい低エネルギー励起が存在することが分かった。 以上の結果は,昨年から本年にかけて国内の8つの討論会,研究会および9つの国際学術雑誌誌に発表している。
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