強・反強誘電性液晶で起こる逐次相転移を解明するために第3隣接相互作用をもつANNNI模型を提案し、強誘電相、高温側の反強誘電相、フェリ誘電相、反強誘電相の順序で基本4相が出現することを明らかにしてきた。本年度は詳しい相図を得ること、特に相図の相互作用パラメタ依存性を調べた。それと共に、観測量である秩序パラメタの平均量を検討し、実験結果と対比することによって残りの中間相の構造についてFI_Lは波数がq=2/5のものと結論し、FI_Hについてはq=2/7と推定することが出来た。また統計力学的問題として、当該現象におけるフェリ誘電性は2副格子からなる通例のフェリ誘電相のものとは異なって3個以上の副格子を有しており高調波成分に起因すること、従って臨界性が通例のものと異なることを示しその指数を平均場近似の範囲で求めた。 当該模型では第3隣接相互作用の存在に加えて、第2隣接相互作用の負値性をも仮定している。続いてこの仮定について、実体的根拠を得ることが出来た。核磁気共鳴による精緻な実験によって液晶分子についてのミクロな状態についての情報が得られつつあるが、その報告では分子の配向方向は強誘電相と反強誘電相とでは異なることが指摘されている。そのことから分子の対エネルギーについて、平行対と反平行対、また強誘電的対と反強誘電的対とでは差異が無視できないと考えられる。そこで液晶分子の長軸の向きについての自由度を導入し、分配関数でまずその自由度についての状態和をとる。そのことによって長距離相互作用が導出され、第2隣接相互作用の負値性も示された。第3隣接相互作用は正負いずれの値をもとりうるが、これは逐次相転移の様々な起こり方に対応しているものと考えられる。
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