研究概要 |
LaCoO_3系の磁気的性質は,Coイオンの特異なスピン状態に強く支配されている。しかし、母物質のLaCoO_3でさえ,そのスピン状態は解明されていない。本研究では,LaCoO_3の高スピン・低スピン転移とスピン状態について核磁気共鳴法を用いて研究を行った。^<59>Co核,^<139>La核,^<17>O核のナイトシフトを4.2Kから300Kの温度範囲で測定した。低温で絶対値が小さく温度変化しないナイトシフトが観測され,確かにCoイオンの低温での基底状態は,非磁性の低スピン状態(^1A_<1g>)であることが明らかになった。また,ナイトシフトは温度の上昇とともに約100Kの温度でピークをとった後,減少する振る舞いが観測された。スピン転移は約500Kの高温で起きるとする光電子分光の結果に基づき,解析を行った。特に,高スピン間の交換相互作用を取り入れた,trigonal結晶場とスピン軌道相互作用を考慮した高スピン状態(^5T_<2g>)が最低エネルギーの励起状態であるとするイオンモデルを用いて,帯磁率とナイトシフトの温度変化を計算し,実験結果との比較を行った。その結果,約200Kの反強磁性的な交換相互作用を仮定すると,実験結果は概略説明できることが明らかになった。しかし,このイオンモデルでは理解しきれない中性子散乱等の実験結果があり,スピン状態については完全に解明されたとは言いがたい。中間スピン状態が低温での最低エネルギーの励起状態であり,スピン転移はこの中間スピン状態と低スピン状態との間で起きるとする理論モデルが最近提案されており,さらなる実験研究が必要である。
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