研究概要 |
電子伝導性とイオン伝導性を有する銀・銅の空孔欠陥型硫化物スピネルを合成し,それらを用いてマイクロ波領域において交流導電率が飽和する領域と空孔欠陥量変化による導電率の周波数依存性を測定し,マイクロ波領域のイオンダイナミクスを明らかにすることを目的として,銅・銀-インジューム系の(CuIn5S8)_<1-x>(In2S3)_<x'>(AgIn5S8)_<1-x>(In2S3)_x (ここで0≦x≦1)組成にて融液からのブリッジマン法およびその後のアニーリングにより単結晶を成長させ,8510Cベクトル・ネットワーク・アナライザ用の試料を作製した.反射・伝送特性より複素誘電率と複素導電率等の材料特性を26.5GHz〜60GHz(RバンドはWR28,UバンドはWR19のキャリブレーションキットを用いてTRL法により校正)の周波数範囲で測定した.結果としてAgIn系の場合空孔の量xが増加すると共にイオン導電率の値は増加の傾向があり,AgIn_5S_8, AgIn_7S_<11>, AgIn_<11>S_<17>では導電率,誘電率とも周波数に対して一定値を示し,AgIn_<21>S_<32>は周波数に対して導電率の増加傾向が見られた.CuIn系のスピネルではAgIn系と反対にxが増えるとイオン導電率が減少する傾向が見られ,CuIn_<11>S_<17>, CuIn_<21>S_<32>とも周波数に対して導電率は増加し,45GHz付近で飽和する傾向が見られた.xの値による空孔量変化に対応した導電率の値自身の変化と飽和する周波数は,スピネル構造の四面体位置にあるCuとAgイオンの違いにより変化するものと考えられる.トンネルの構造と密接に関係する格子定数の変化が空孔量xの増加に対し銀系と銅系と反対であり,xの値に対した銀系と銅系の導電率の変化と対応していることが明らかとなった.
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