研究概要 |
研究目的:高イオン伝導の原因が特徴的電子状態にあると予想し、可視光照射により電子を仮想状態に励起し可動イオン-フォノン結合を通してより高イオン伝導度出現の可能性を赤イオン伝導より探る。 方法:高イオン導電体に対しエキシトンエネルギー以下の可視光(AgClでは4215A,AgBrでは5145A)を断続的に照射し,室温度,分解能1cm^<-1>で照射前後の遠赤外スペクトルを観測し,誘電率ε(ω)とイオン伝導度σの間の関係σ=ω[ε(ω)-ε(∞)]/4πiにより可動イオン及び光学フォノンの情報を得た。解析は分散式を用いたfittingの方法で行い,可動イオン密度Nや遠赤外領域のσを求める。 結果:AgClとAgBrとで異なる以下の結果を得た。 AgCl: 低エネルギー側の反射率Rが照射時間と共に段階的に上昇する。従って照射により可動欠陥数Nやσが増加する事になる。この予想をはっきりさせる為,10分以上の光照射で観測された横(ω_<TO>)及び縦光学フォノン振動数(ω_<LO>)の増加と減少とを,有効電荷の減少から点電荷モデルで解釈し,実験事実と適合する結果を得た。又,照射無しの試料の温度650K付近のRは可動イオンの項無しで記述できるが,室温度での14分間照射の試料の低エネルギー側のRはフォノンの項のみでは記述できない。この事は光照射の効果が欠陥誘起の点では温度上昇効果より強い事を示す。これらの結果はいずれも可動欠陥の増加を示唆る。 AgBr: 5分間の連続照射の試料Bにははっきりと変化が現れたが断続照射の試料では10分以上の照射合計時間で変化が現れ、15分間照射の試料との間で段階的変化を示した。この時、Nは僅に増加するがイオン移動度μとσが減少する。ω_<TO>, ω_<LO>にはほとんど変化が無い。温度上昇の場合350K以上でNは僅かに減少し,σは緩い上昇を示すので,光照射による変化は温度上昇の時とは異なる傾向を示す事になる。光照射無しのAgBrの室温度でのRは可動イオンの項無しでは記述できないので,光照射は既に存在する欠陥を安全位置へ戻すannealingの役目も果たす事を示している。
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