研究概要 |
本研究では、有機化合物と無機化合物の中間的な性質を持つ錯体分子の内、π電子系が発達した分子の分子構造と会合構造との相関の解析を通して、構造制御法を、そして走査トンネル顕微鏡(STM)を始めとする解析法により、構造評価法を検討した。まず、アルキル長鎖を導入した錯体の会合状態を調べることとし、よく知られているsalenのニッケル(II)錯体に、2つのアルキル基(C_nH_<2n+1>,n=0,1,2,3,4,6,7,8,10,12)を導入した錯体を合成した。ブチル基を導入した錯体の単結晶のX線構造解析を行い、錯体は結晶中で特殊な二量体構造をとることがわかった。2分子の錯体分子が会合した二量体の構造では、π電子系が重なったπ-π相互作用と、側鎖のアルキル基とπ電子のCH-π相互作用が見られる。π-π相互作用では、金属イオンと配位原子間のアピカル配位は見られないが、π電子系の中で陽性と陰性の原子同士が向かい合った構造である。このアルキル置換錯体溶液を水面上に展開すると、単分子膜が生成し、STM観察からやはり、単分子膜中でも結晶中と同様の特殊な2量体構造をとることを明らかにした。 同様の考察を近年、超伝導性や低次元伝導性が注目されている。[Ni(dmit)_2]系についても行った。[Ni(dmit)_2]のジオクタデシルジメチルアンモニウム塩の結晶構造および単分子膜のSTM像から、アルキル基が密な層と錯体層が交互に並んだ構造を結晶中および単分子膜中でとることを明らかにした。絶縁性の高いアルキル基にてπ電子系の発達した錯体層が隔てられた3次元(結晶)および2次元(単分子膜)の分子系超構造を調製することができたことになり、目的通り、新規のπ電子系が関与する分子系超構造の制御に成功した。
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