研究概要 |
動的電子機能を有する遷移金属錯体集合体超構造の創製をめざし、光応答性配位子を有する単核金属錯体を化学結合で連結し二次元シート型に集積化したスピンクロスオーバー格子の構造を行った。分子設計にあたっては、まず大きな電子相関を有する第一遷移系列金属原子間を光応答性の有機配位子で架橋することで一次元鎖状構造を実現し、次にこれら一次元鎖間を水、アルコール、ピラジン等の分子との水素結合を活用して連結することを基本方針とした。本年度は、ポリオキソカーボン型配位子であるシュウ酸とクロラニル酸(H_2CA)を用いてマンガン(II)、鉄(II)、コバルト(II)、銅(II)の単結晶配位高分子錯体の合成に成功し、X線解析によりこれらが二次元シート型構造を有することを明らかにした。 代表例として、一連の新規銅(II)配位高分子錯体[Cu(CA)(pz)]_n(1,pz=pyrazine),[Cu(CA)(MeOH)_2]_n(2),[Cu(CA)(H_2O)_2]_n(3)、{[Cu(CA)(H_2O)_2](H_2O)}_n(4)があげられる。さらに、金属原子とクロラニレートとから成る無限1次元鎖間にピラジン誘導体が挿入したインターカレーション型金属錯体高分子{[Cu(CA)(H_2O)_2](phz)}_n(5,phz=phenazine),{[Cu(CA)(H_2O)_2](2,5-Me_2pz)}_n(6),{[Fe(CA)(H_2O)_2](phz)}_n(7)の合成と構造解析にも成功した。これにより[Cu(CA)(H_2O)_2]_nおよび[Fe(CA)(H_2O)_2]_nchain間に種々の分子の挿入が可能となり、酸化還元能を有する分子(例えばpキノン、TCNQなど)の導入を行ないつつある。7のχTは極低温において低下しており、Fe(II)間に反強磁性的相互作用が存在することが推定された。またヨウ素ド-ピングにより、絶縁体領域から半導体領域への電気伝導度の上昇(〜10^<-3>Scm^<-1>)がみられた。 以上から、有機・無機ハイブリッド型遷移金属2次元四角型格子の一般的かつ合理的構築法が確立しつつあり、かつその層間に種々の機能性有機分子を取り込んだ新規金属錯体高分子物質を合成するための指針をも得ることができた。
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