研究概要 |
シリル基がβ位の炭素陽イオンを安定化することはよく知られており,有機ケイ素化合物の反応性を理解する上で重要な特性の一つである.ビニルシランはα位でプロトンと反応し,β-シリル炭素陽イオンを中間体として与える.通常β-シリル炭素陽イオンからのシリル基の脱離は非常に速いため,この中間体を求核剤との反応に利用した例はほとんど知られていない.本研究では,分子内の適当な位置に水酸基のような求核剤を有するビニルシランを用いたところ,プロトンやLewis酸触媒によって生じるβ-シリル炭素陽イオン中間体が水酸基と反応して,テトラヒドロフランやテトラヒドロピラン誘導体などの含酸素環状化合物を効率よく与えた.5-シリル-4-ペンテン-1-オールはクロロホルム中,60℃で触媒量のp-トルエンスルホン酸を作用させると,テトラヒドロフランが収率94%で得られることがわかった.溶媒としてはクロロホルムがよい.アルコール系やエーテル系溶媒では全く反応しない.また,プロトン酸として酢酸やトリフルオロ酢酸を用いてみたが反応はほとんど進行しなかった.プロトン酸の代わりにLewis酸をビニルシランの環化反応に用いたところ,四塩化チタンを触媒として用いると室温でも速やかに反応が進行し,テトラヒドロフランが高収率で得られた(収率90%,25℃,4時間).本環化反応の反応速度はビニルシランの立体化学により大きく異なり,p-トルエンスルホン酸を用いる系ではE体よりもZ体の反応性が3.0倍高く,四塩化チタンを用いる系では36倍高いことがわかった.反応機構を考察した結果,水酸基の二重結合への付加はsyn選択的に進行した.また,反応を進行させるのに必須である酸触媒に関して固体酸触媒を含めた広範な探索を行った.
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