研究概要 |
本重点領域研究の中心テーマは、特殊反応場の触媒を、分子レベルで理解し触媒設計の指針をえることである。本研究ではとくに、不飽和炭化水素を配位させたパラジウムクラスター錯体を合成し、これら配位子の電子状態、構造、反応性の相互の関係を明らかにすることを目的とする。 1)μ-アリル-パラジウム2核錯体の合成と結合性評価 Pd-Pd結合上にアリル基が架橋配位する錯体は、Pd(II)の単核アリル錯体とPd(O)の錯体の反応で合成できることが判明した。これらの構造は、^1HNMR,^<31>PNMR,X線構造解析などで決定した。錯体の安定性は、電子吸引性置換基をもつアリル基が配位する場合に高く、逆に電子供与性置換基のあるμ-アリル錯体の安定性は低いことが判明した。アリル配位子とPd-Pd骨格のあいだの相互作用を理解する目的で、モデル錯体(H_3P)_2Pd_2(μ-C_3H_5)(μ-Br)のab initio分子軌道計算を行った結果、μ-アリル基とPd-Pdグループのあいだの最も重要な相互作用は、Pd-Pd間の結合性dσ-dσ軌道およびdπ-dπ軌道からアリル基の反結合性π^*軌道への逆供与であることが分かった。 2)μ-アレニル-パラジウム2核錯体の合成と反応性評価 これらの錯体の合成は、上と同じ原理で行った。X線構造解析の結果μ-アレニル配位子は、Pd-Pd結合とほとんど平行に並ぶことが分かった。またμ-アレニル基の中央炭素に対するH^+の求電子攻撃が容易に生起し、対応するμ-ビニルカルベン錯体やπ-アリル錯体への変換が起こる。 3)μ-ブタジエン-パラジウム2核錯体の合成 Pd(II)-ハロゲン化物錯体とPd(O)錯体とは、溶液中で混合されてもそのままではPd(I)-Pd(I)結合に変換されない。この系にブタジエンを添加すると容易にPd-Pd結合が生成し、対応するμ-ブタジエン錯体を与えることが判明した。^1HNMRの解析から、架橋ブタジエンはs-trans構造をとることが判明した。
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