研究概要 |
I.サル海馬体における空間統合機構 レバ-押し場所移動課題遂行中のサル海馬体および海馬傍回から総数238個のニューロンを記録し,そのうち79個(33.2%)がサルの特定の居場所に関連してインパルス放電頻度が増加した(場所関連ニューロン)。場所関連応答は,1)実験室内の照明燈を消灯して外の景色を見えなくすると消失,減弱することから,キャブ外の種々の視覚的な環境刺激が重要である,2)サルの向きを回転した状態でも,回転する前と同様の応答がみられることから,特定の環境刺激よりは,複数の環境刺激の位置関係に基づく場所の認知が重要である,3)キャブを実験者が強制的に移動すると応答性が減弱することから,場所関連応答性の形成には,サル自身のレバ-押しによる能動的な場所移動が重要であることなどが明らかになった。以上より,海馬体場所関連ニューロンは,キャブ外の複数の視覚的な環境刺激の位置関係やレバ-押しなど多数の刺激や事象を連合的にコードしていることが強く示唆される。 II.サル中隔核における空間統合機構 サル中隔核から430個の単一ニューロン活動を記録し,サルの居場所の違いにより呈示物体の意味が変化する条件課題(PGN課題)および呈示物体の意味が常に一定である非条件課題(AGN/SGN課題)に対する応答様式を解析した。1)190個の応答ニューロンのうち,30.5%はサルの居場所に関して識別的に応答した。2)条件(PGN)および非条件(AGN)課題の両課題をテストできた中隔核ニューロンのうち,59.7%はPGN課題に対してだけ,その意味(Go-報酬/Nogo-無報酬)に応じて識別的に応答した。3)PGNおよびAGN課題に非識別的に応答したニューロンに対してさらにSGN課題をテストし,ほとんど(90.5%)は物体の報酬性(報酬/無報酬)に対して識別的に応答した。これらニューロンの応答性は,消去学習により物体の報酬性を直接変化させてもそれに応じて変化することからも確認された。以上から中隔核は,居場所の認知→居場所の違いにより変化する物体の意味の識別という一連の過程を統合する上で重要な役割を果たしていることが示唆される。
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