研究概要 |
音のバーチャルリアリティ(VR)を実現する手法として最も単純かつ確実な方法は本人または本人を模した人形の耳の位置で収音しヘッドホンで再生するバイノ-ラルシステムやスピーカ再生で受聴者の外耳道入口付近に所望の音圧信号を与えるトランスオーラル系が提案されている.ヘッドホン受聴には装着にともなう圧迫感が,また両方式とも耳の位置だけの制御であるから人の動きや窓や扉の開閉や人の出入りなど部屋の音響条件の変化に適応した制御を行わなければならない. 受聴者を取り囲むある空間領域内に所望の音場が実現出来れば当然受聴者への負担は少なくなる.しかしシステムが極めて大規模となり実現が難しい. 本年度は音場制御領域を従来の両耳入口という特定の2点から三次元空間への拡大,聴感評価によって必要かつ十分な制御特性を有する多点音場制御システムの構築に必要な条件,聴覚を考慮した三次元音響空間の符号化伝送方式の検討を実施した. 具体的にはキルヒホッフ積分に基づく三次元多点音場制御システムに求められる条件を明らかにした. 広帯域音響信号の符号化に現行の数10kHz標本化,マルチビット量子化ではなく山崎の提案している高速標本化1bit量子化の導入し,この方式によりマルチチャンネル変復調装置および録音機を制作し実験に使用している.前述のようにキルヒホッフ積分に基づくVRによる音場の時間空間移動には膨大なチャンネル数の伝送路を必要とする.N.Wienerが1985年に提唱したGHA(Generalized Harmonic Analysis)の考え方を時間領域まで拡張した逐次成分分析による高能率符号化の検討を実施した. またこの音響VRに不可欠な高速たたみ込み演算を実現すべく,一般調和解析および逐次成分分析によるたたみ込み演算の高速化の検討も始めている.これらの手法による音場制御用専用LSIの設計を来年度実施する計画である.
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