研究概要 |
光化学系II複合体には葉緑体遺伝子にコードされ,チラコイド膜を一回だけ貫通する小型のサブユニットがいくつか存在する.本研究では,光化学系II複合体の小型のサブユニットをコードする葉緑体のpsbI,psbK,psbT遺伝子の機能を研究するため,それぞれ失活させた葉緑体形質転換株を緑藻クラミドモナス(Chlsmydomonas reinhardtii)から作出し,その光合成活性や光ストレス耐性などを解析した. (1)psbI遺伝子を失活させた形質転換株は光合成的にわずかに生育したが,野生株に比べその生育速度は著しく遅くかつ強光照射下では著しい生育阻害が観測された.さらに,光合成活性は野生株の10-20%に低下し,光化学系II複合体の蓄積量もそれに見合う程度に減少していた.したがって,psbI遺伝子産物は光化学系II活性に必須ではないが,複合体の正常な蓄積には重要であることが示された. (2)psbK遺伝子を失活させた形質転換株は光合成的に全く生育せず,光化学系II活性や複合体の蓄積はほとんど認められなかった.したがって,psbK遺伝子産物は光化学系IIに必須の成分で,特に複合体の正常な蓄積には不可欠であると結論された. (3)葉緑体ゲノムに保存されたORFの一つのycf8の産物に対する抗体を作りウエスタン分析を行ったところ,ycf8は光化学系II複合体の小型のサブユニットをコードしていることが分かり,psbTと名付けた.この遺伝子を失活させた形質転換株は光合成的に生育したが,強光照射下では生育は著しく阻害された.したがって,psbT遺伝子産物は光ストレス条件下で細胞が正常に生育ために必要な成分であると結論された.
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