研究概要 |
シロイヌナズナの野生株を26℃で生育させると、3種のω-3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(FAD3, FAD7, FAD8)のうち、小胞体局在型FAD3と葉緑体局在型FAD7の2つ遺伝子が発現する。また、fad7株においては、FAD3のみが発現する。よって、この温度で生育したfad7株の葉組織の18:3はおもにFAD3不飽和化酵素によって生成されたものであり、野生株とfad7株のトリエン脂肪酸含量の差はFAD7不飽和化酵素によって生成された部分に相当すると考えられる。26℃において、野生株では葉の成熟に伴いトリエン脂肪酸含量が増加したのに対し、fad7株では逆に減少した。一方、15℃では、野生株では3つの遺伝子すべてが、またFAD7株ではFAD3とFAD8の2つが発現する。この生育条件では、野生株、fad7株ともに、葉の成熟に伴いトリエン脂肪酸含量が増加した。この結果は、葉の成熟に伴うトリエン脂肪酸の増加には葉緑体局在型ω-3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の発現が必要であることを示している。 また、コムギから小胞体局在型(TaFAD3)および葉緑体局在型(TaFAD7)ω-3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子をクローニングし、それらをプローブに用いて、葉および根の細胞の加齢に伴う遺伝子の発現パターンについて解析した。TaFAD7はコムギの葉組織で発現が見られたが、葉細胞の加齢によらず、そのmRNAレベルはほぼ一定であることが分かった。このことは、細胞の加齢に伴う18:3の増加は、遺伝子の転写後の調節によることを示唆している。一方、TaFAD3mRNAは、両組織において分裂組織を含む領域で著しく蓄積し、その後細胞の加齢に伴い減少した。葉緑体膜系以外の生体膜に多く含まれるリン脂質分子種の18:3の割合は、根組織では細胞の加齢に伴い低下し、TaFAD3遺伝子の発現量との相関が認められた。ところが、葉の組織ではTaFAD3遺伝子の発現量が低下しても、逆にリン脂質分子の18:3の割合は細胞の加齢に伴い増加した。このことから、葉緑体から他の生体膜への18:3の輸送が行われていることが示唆された。 以上の結果は、細胞の加齢に伴う葉緑体以外の生体膜の18:3の含量の調節には、葉組織では葉緑体局在型、根組織では小胞体局在型ω-3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の発現が主要な役割を担っていることを示している。
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