研究概要 |
下側頭葉皮質の回部にあたるTE野の細胞の多くは、物体の部分的特徴に対してかなり鋭い選択性を持って反応し、似た図形に応答する細胞は集まってコラムを形成していることを我々は過去に報告した(Fujita et al., Nature, 360,343-346,1992)。ところが、別研究グループによれば、下側頭葉皮質の細胞の60%が、彼らの呈示した5つの図形のいずれかに対して反応を示し、反応の選択性はあるものの非常に低く、個々の細胞の反応は、アスキーコードにおけるビットのようなもので、それだけでは、何らの意味ある情報と成り得ないとしている(Gochin et al., J. Neurophysiol., 71:2325-2337,1994)。この結果の食い違いの原因には、1)記録部位の違い(TE野に記録を限っているか、上側頭溝下壁をも含んでいるか)、2)サルが麻酔下か覚醒下か、3)ナイーブなサルか強い学習負荷をかけたサルかのいずれかがあると考えられる。本研究では、第一の可能性を検討する目的で、40個の図形刺激に対するTE野と上側頭溝下壁の細胞の視覚反応性を比較した。両者の間には、上記の結果の違いを説明するような刺激選択性の差異は見いだされなかった。現在、同時進行中の、麻酔下と覚醒下の比較においても、上記の食い違いを説明する現象は見いだされず、我々は、学習により、下側頭葉皮質の細胞の視覚反応性に大きな変化を及ぼしていることが、2つの研究の結果の差を説明するのだと考えている。
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