研究概要 |
腫瘍拒絶の標的分子としてのストレス蛋白質(hsp)の役割りとその分子機構につき、今年度は次の3点を明らかにした。 1)70kDa hspの細胞表面発現:我々は数年前に70kDa hspのうち、70hscと思われる分子がH-ras癌遺伝子で形質転換したラット線繊芽細胞表面に発現することを単クローン抗体(mAb)♯067を用いて明らかにした。その後、70hsc特異的なmAb NT22を開発したが、これもDaudi細胞等のE-Bウイルスを用いた形質転換細胞株、あるいはHeLa細胞などの上皮性腫瘍株細胞表面と反応した。今年度はさらに別な2種類の(A15、2G10)の抗70kDa hsp mAbを開発し、細胞表面の反応性をみた。その結果やはり、これら2つのmAbともにDaudi、HeLaなどと反応した。現在、これらすべての抗70kDa hsp mAbをもちいてその各々の分子を分子クローニングすることを試みている。そうすることにより70kDa hspの細胞表面発現機構を明らかに出来ると思われる。 2)細胞の癌化で発現する70kDa hsp分子のT細胞との反応機構:mAb♯067により認識される分子はラット70hsc様の分子であり、CD3^+,4^-,8^-,TCRαβ^-,NKR-PI^-のT細胞と反応した。この時、前者は細胞分裂の著しいある特定の細胞由来の抗原ペプチド(分子量5,000以下)と複合体を形成することが必要となった。今後は、この抗原ペプチドの1次構造決定と、70hscとの結合を明らかにすることにより、70kDa hspを用いて腫瘍拒絶の誘導がいかに可能かの解析が重要である。 3)70hscと基質蛋白分子の結合:我々は70hscと結合する基質蛋白分子としてpRb(網腫芽細胞腫蛋白)に注目し、70hscとの結合機構を解析した。pRbの様々なdeletion mutantをGST-fusion proteinとして作製し、70hscとの結合をみた。その結果、pRbN末301-372の部分に70hscとの結合活性があり、さらにこの部分の合成アミノ酸を作製したところ、331-340の部分に最も結合活性が高いことが認められた。この部分には、奇数番目に疏水性の高いアミノ酸が配置されており、他の70kDa hspであるBipの基質結合モチーフと同様な特徴が認められた。今後はこれらのモチーフが70kDa hspと結合する基質蛋白質に共通にみられるのか否か、結合親和性にヒエラルキーがどの程度存在するのかなどを明らかにする必要がある。また、多少免疫学的観点から離れるがhsc70とpRbの結合の生物学的な意味をpRbのbreakdownに焦点をあて解明する必要がある。
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