研究概要 |
DNA光回復酵素(photolyase)はDNA修復酵素の一つで,紫外線によってDNAに生じる損傷であるピリミジン二量体に結合し,その後に吸収する光のエネルギーを用いて元の単量体に修復する.このDNA修復は光回復と呼ばれる.本研究は,ラン藻Anacystis nidulans由来の光回復酵素の三次元構造をX線構造解析により決定し,含まれる2種の補欠分子とアポタンパク質の相互配置を解明することによって,光によるDNA修復の分子機構を原子レベルで理解しようとするものである.この立体構造決定によって,光回復酵素と損傷を受けたDNAの相互作用の機構,その光波長依存性の違いに及ぼすフラビン補欠分子の構造と位置関係,その光エネルギー移行の機構などに多くの知見を得ることを目的とした. Anacystis nidulansの光回復酵素の結晶については,高エネルギー物理学研究所のシンクロトロン放射光を用いて回析強度測定を行い,1.8Å分解能の精度のよいデータを収集することができた.重原子誘導体結晶の検索の結果,水銀化合物をはじめとする3種のものが有効であることがわかり,多重同型置換法によって解釈が可能な電子密度を得た.さらにsolvent flattening法などによる改良を加えることによって,分子モデルが構築可能な良質の電子密度図を得た.これまでに,ほとんどすべてのアミノ酸残基の分子モデルを組み立てることができ,含まれる2種の補欠分子の電子密度も確認できた.精密化の結果,1.8Å分解能の反射を用いてR値は約20%である.また分子のフォールディングは,全体としては昨年発表された大腸菌由来のものと似ている.2種の補欠因子のうち,両者で共通のFAD(触媒補欠因子)の結合位置もほぼ同じであるが,両者で分子種が異なる第2補欠分子(集光補欠因子)は、異なる結合様式をしていることがわかった。
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