味覚の情報伝達には様々な経路があることが、生化学・生理学的に示唆されてきた。味物質を受容する味細胞に苦味物質を添加すると細胞内のCa^<2+>濃度が上昇することから、苦味の情報伝達には、セカンドメッセンジャーであるIP_3を上昇させる機能を持つGqタイプのGタンパク質が関与していることが考えられている。我々は、昨年度、ラット舌上皮のcDNAライブラリーからGqファミリーに属しているG15に相同性の高いG15-likeをクローニングすることに成功した。そこで今年度は、G15-likeがIP_3を上昇させる機能を持つかどうか、また、味を受容する器官である味蕾に発現しているかどうかを検討した。 まず、G15-likeの212番目のアミノ酸残基であるグルタミンをロイシンに変異することによりG15-likeを常に活性化状態にした。このcDNAの全長を発現ベクターに組み込み、cos1細胞に導入した。導入後2日目に、細胞内IP_3量を測定したところ、ベクターのみを導入した細胞と比較して、Gqと同様に有意な差が見られた。 次に、G15-likeの発現部位を調べるために味蕾を多く含む舌の有郭乳頭の切片を用いて抗体染色を行った。抗原として、G15-likeのC端の10アミノ酸残基の配列のペプチドを合成し、ウサギに免疫することにより得た抗血清を実験に用いた。その結果、味蕾を含む上皮に染色が見られた。抗体を抗原により吸収して染色を同様に行うと味蕾以外の上皮が染色されることから、G15-likeは味蕾特異的に発現していることが明らかとなった。 以上より、G15-likeは苦味の情報伝達に関与するGタンパク質であることが明らかとなった。
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