研究概要 |
我々はウシ乳腺上皮細胞由来の糖タンパク質Asn型糖鎖の構造を解析し、これらの糖タンパク質はN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を含む極めて珍しい糖鎖を持つこと、またこの糖鎖の発現は乳腺組織の機能分化と共に増大することを見い出した。今回ヒト乳汁や乳癌組織の糖タンパク質を用いて糖鎖の構造を解析した結果、ヒトでも同様な現象が見られ、かつ細胞の癌化でGalNAcを持つ糖鎖が増大する傾向が見られた。 ウシ及びヒト乳腺上皮細胞の機能分化やヒト乳腺細胞の癌化の過程で消長する糖タンパク質糖鎖のN-アセチルガラクトサミニル化の調節機構を探る目的で、β-1,4-N-アセチルガラクトサミン転移酵素(GalNAcT)の精製を試みた。ウシ泌乳期乳腺のミクロソーム画分を可溶化し、種々のアフィニティーカラムを通して酵素を部分精製した。その結果最終画分に分子量80Kを主とする4本のバンドが得られたので、どのタンパク質バンドが酵素活性をもつかどうかを解析している。またこの遺伝子をクローニングするため、GalNAcTと同じ基質に異なる糖を転移しその遺伝子がクローニングされているβ-1,4-ガラクトース転移酵素(GalT)とβ-1,4-N-アセチルグルコサミン転移酵素の間で見られるホモロジーを基に、ウシ乳腺mRNAから3′-RACE法を行なった。その結果430bpのクローンが得られ、このクローンは推定アミノ酸配列からウシGalTと38%の、また遺伝子バンク登録のヒトGalTに高い相同性をもつ遺伝子断片と77%の相同性を示した。このクローンは何らかの糖転移酵素やそれに関連した分子をコードしている可能性が考えられ、現在さらに解析を進めている。
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