研究概要 |
1.我々は標的遺伝子組換え法によって、微小管関連蛋白(MAPs)(神経細胞特異的に存在し、微小管に結合してその重合を調節する蛋白)の遺伝子のうち、MAP1B遺伝子欠失マウスの作製に成功しその解析を行ったところ,ホモ接合型マウスは生存することができるが,野生型に比べ体重減少,筋力低下が明らかとなった。組織学的解析の結果,視神経において発達不全が認められ,電子顕微鏡による解析によっても軸索内の微小管の構成の異常等がみられた。MAP1B蛋白欠失マウスにおいては,Tau蛋白の増加がみられるため,Tau蛋白がMAP1B蛋白の機能を代償している可能性が考えられる。現在我々は,Tau蛋白欠失マウスとMAP1B蛋白欠失マウスの交配を行っているところである。広義の微小管関連蛋白であるシナプシン1はシナプス小胞の近傍に存在する蛋白であり,シナプス小胞からの神経伝達物質の放出を調節していると考えられている。又、シナプス形成自体にも重要であることが示されている。我々は標的遺伝子組換え法によってシナプシン1欠失マウス系統の作製、解析を行い、以下のような結果を得た。(1)海馬CA3部及び小脳分子層のシナプスにおいてシナプス小胞の数及び密度が減少していた。またシナプス小胞に分布する蛋白であるシナプトフィジンが減少していた。(2)シナプス小胞の減少はシナプスのactive zoneから遠くなるほど顕著にみられた。(3)海馬CA3部シナプスにおいてはシナプス前部の面積が減少しており,その結果はDiIをもちいても確認された。(4)急速凍結ディープエッチ法により,シナプス小胞間の架橋の減少が観察された。(5)海馬CA3部シナプスにおけるLTPには影響が認められなかった。以上のように、シナプスの形成及び構造の維持におけるシナプシン1の役割が初めて明らかになった。今後我々は初代培養細胞等を用いたシナプス伝達の電気生理学的解析や変異マウスの行動学的解析等を行う予定である。
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