Wnt遺伝子はシステイン残基に富む分泌性糖タンパク質をコードし、細胞間伝達物質として脊椎動物の発生過程の様々な局面で重要な働きを担うものと考えられている。そのメンバーの1つであるWnt-3aでは、遺伝子ノックアウトにより作製したホモ欠失変異体では前肢より後方の体幹が欠失するのに対し、ヘテロ変異体では尾の先端にのみ若干の欠失が認められる。このことから、頭尾軸に沿った形態形成の進行はWnt-3aの発現量によって制御されているのではないかと考えその検討を行った。まず、マウス胚でのWnt-3a mRNAの発現をwhole moust in situhybridization法により調べたところ、9.5日胚から12.5日胚までは尾芽にWnt-3a mRNAの発現が認められたが、尾部方向への形態形成の伸長が停止する13.5日胚ではその発現は消失しており、Wnt-3aの発現する時期は尾部方向への伸長が起きる時期と良く対応することが明らかとなった。一方、Wnt-3a遺伝子座のアリルであると考えられるvestigial tail(vt)変異マウスのホモ変異体では尾芽でのWnt-3aの発現量が低下しており、Wnt-3a欠失変異体よりも弱い表現型、即ち、尾の付け根から後方の体節中胚葉の欠失を示すことが明らかとなった。さらにWnt-3a欠失変異体とvt変異体との二重ヘテロ変異体では、両者の中間的な表現型、即ち、尾の付け根よりやや前方の位置から後方の体節中胚葉の欠失を示した。従って、尾芽でのWnt-3aの発現量の低下に応じて尾部方向への形態形成の伸長が停止するものと考えられた。以上の結果から、尾芽でのWnt-3a遺伝子の発現量が頭尾軸に沿った形態形成が正常に進行する上で重要であると考えられる。
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