研究概要 |
【1】アルカン/アルケン生合成経路の解明 まず、生物学的にCO_2からアルカン/アルケンを合成する経路のなかで最も研究が遅れており、実際反応律速になっている可能性が高いと思われる脂肪酸からアルカン/アルケンへの変換反応について検討した。緑藻類などを用いた研究結果からは脂肪酸から直接アルカン/アルケンを合成しているのではなく、脂肪酸からアルデヒドになった後アルカン/アルケンに変換される可能性が示唆されている。そこでHD-1株が最も多く蓄積していたヘキサデカン(C16)の前駆物質であると予想されるパルミチン酸あるいはヘキサデカナ-ルを使ってアルカン/アルケンの生成が実際に起こるかを調べた。^<14>C-パルミチン酸は市販のものを利用した。^<14>C-ヘキサデカナ-ルは入手不可能であったため^<14>C-パルミチン酸から化学合成した。アルカン/アルケンの生成反応は以下のようにして行った。基質である^<14>C-パルミチン酸あるいは^<14>C-ヘキサデカナ-ルを含むリン酸緩衝液(pH7.0)/1% Triton X-100をナスフラスコ内でArガス通気により脱酸素処理する。同様に脱酸素処理した細胞抽出液を嫌気性ボックス内で添加後密栓する。これを遮光した湯溶中で37℃24時間保温した。反応産物を含む疎水性画分をクロロホルム抽出し、気質のみで保温したコントロールと共にシリカゲル60TLC(ヘキサンおよびヘキサン,ジエチルエーテル,ギ酸)で展開し、脂肪酸あるいはアルデヒド画分(Rf=0.5-0.7)とアルカン/アルケン画分(Rf=0.9以上)を厳密に分けて回収した。液体シンチレーションカウンターによりそれぞれの放射活性を測定した。この結果から、微量ではあるが細胞抽出液を加えた場合にのみアルカン/アルケンの生成が確認できた。さらに脂肪酸にくらべてアルデヒドの方がアルカン/アルケンの生成率が良いことか、細菌においても脂肪酸はアルデヒドを経由してアルカン/アルケンに変換されることが強く示唆された。現在細胞抽出液をカラムクロマトグラフィーなどにより分画して、本酵素活性(アルデヒドデカルボニラーゼ)の精製を目指している。 【2】アルカン/アルケン合成能力の向上 本プロジェクトが実際に地球環境レベルで貢献できるにはHD-1株の生育速度を高めると共にアルカン/アルケンの蓄積量を飛躍的に増大する必要がある。そこで、人為的突然変異処理を繰り返してこの目的に合った変異株を効率良く選別する方法を検討した。突然変異処理法は細菌において最も強力で汎用的なニトロソグアニジン処理を採用した。処理条件は生存率10%〜50%を設定(100mg/1,37℃,30分間)した。アルカン/アルケンの合成能力の高くなった株はプレート上では元株と容易には区別できない。そこで比重の違いを利用した。すなわちアルカン/アルケンを含む疎水性成分の細胞内含量が高いものは他にくらべて軽くなっていると予想した。比重の違いで生体物質を分画するのに最も簡便な方法のひとつが密度勾配遠心分離法である。そこで細胞を分画するための無菌的密度勾配遠心分離の最適条件検討を策定した。遠心分離後、上層から注意深く溶液を10区画(No.1〜No.10)に分けて回収した。これをプレートに広げて単一細胞を単離して最も比重の軽い細胞(No.5)、中程度の細胞(No.7)、最も重い細胞(No.10)を選んでそれぞれの大量培養後、疎水性成分含量を比較した。取得したNo.5は変異剤未処理の約3倍の疎水性物質を蓄積していた。現在ガスクロマトグラフィーにより疎水性成分(アルカン/アルケン含量など)を分析中である。以上の結果から、突然変異処理(ニトロソグアニジンおよび紫外線照射)と密度勾配遠心分離による選別により、アルカン/アルケンの高生産性突然変異株の取得が可能であることが確認できた。今後、この操作を繰り返すことによってHD-1株のアルカン/アルケン生成能力を可能な限り増強させる予定である。
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