研究概要 |
目的:体細胞におけるミトコンドリア遺伝子点変異蓄積とその病態への関与を明らかにするために、ミトコンドリア脳筋症患者の骨格筋およびパーキンソン病患者の脳組織のミトコンドリアDNA(mtDNA)をクローン化し、クローン間の塩基配列の多様性を検討した。 方法:ミトコンドリア脳筋症患者(24歳、女性、3243A→G塩基転位を伴う)の骨格筋からDNAを抽出し、Taq DNA polymeraseを用いてmtDNA断片(347bp)を増幅した。これをTA cloning vectorに挿入し、60クローンを単離し、その塩基配列をシークエンス反応ロボットおよび蛍光DNAシークエンサーを用いて決定した。同様に、コントロール(30歳、女性)の骨格筋および正常胎盤からmtDNA断片を増幅し、それぞれ60クローンの塩基配列を決定した。 結果:ミトコンドリア脳筋症患者の骨格筋では、60クローン中10個のクローンに点変異が検出された。3種のアミノ酸置換を伴わない変異が7個のクローンに観察された。さらに、アミノ酸置換(C→T:Ala→Val)を伴う変異が1個のクローンに観察されたたのみならず、終止コドンを生じる変異(T→G:Tyr→Stop)が2個のクローンにおいて検出された。コントロールの骨格筋では塩基置換は分析した60クローンには検出されなかった。正常胎盤ではアミノ酸置換を伴う変異(A→G:Thr→Ala)が60クローン中2個のクローンに観察された。ミトコンドリア脳筋症における変異の頻度(10個/60クローン)は、コントロール骨格筋(0/60,p<0.001)および正常胎盤(2/60,p<0.05)における頻度よりも統計学的に優位に高かった。 考察:ミトコンドリア脳筋症における変異の頻度(10個/20,820 bp)によれば、16,569 bpのmtDNAは平均8個の変異を含む。そのうち3分の1がミトコンドリア機能に影響を及ぼす変異であると仮定すると、それぞれのmtDNA分子は2-3個の有害な変異を有すると推定された。同様の手法を用いてパーキンソン病患者3例(180クローン)とコントロール5例(100クローン)の線条体のmtDNAについて塩基配列を解析中である。
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