研究概要 |
近年、ハンチントン舞踏病(HD)、ケネデイ-病(SBMA)、SCA1などの遺伝性神経変性疾患の原因遺伝子が次々と固定され、患者の遺伝子では、CAGの繰り返し数が正常人に比べ異常に多いことが明らかとなってきた。一方、ほかの遺伝性神経変性疾患であるマシャド-・ジョゼフ病(MJD),SCA2等では、DNAマーカーを用いた連鎖の分析により染色体上の原因遺伝子の存在部位は報告されているが、その原因遺伝子の同定には至っていない。これらの疾患もHD、SCA1等と同様の遺伝子形式及び臨床経過をたどることから、MJD等においても、CAGリピートの異常な増幅によって発症していると想定された。 そこで、新たな遺伝性神経変性疾患の原因遺伝子の同定を以下の方法で試みた。まず、CAGリピートをもつ合成オリゴヌクレオチドをプローブとして、CAGリピートを含むクローンのスクリーニングを行い、ヒト脳cDNAライブラリー及び遺伝子ライブラリーから複数個のクローンを得た。FISH法による染色体マッピングの結果、そのうちの一つが、14番染色体q32.1の位置にマップされた。これはまさしく連鎖解析によるマシャド-・ジョゼフ病(MJD)の原因遺伝子の存在部位であり、このクローンがMJD原因遺伝子である可能性が極めて高いと考えられた。次に、臨床的にMJDと診断された患者末梢血および病理解剖で得られた脳からDNAを抽出し、PCRによる遺伝子診断を行なった。予想されたように、患者の遺伝子では、正常者ボランティアの遺伝子と比較して、40から60個のCAGリピートの増幅が確認され、この遺伝子がMJDの原因遺伝子であると結論された。 今後、CAGリピートの増幅による発症の分子機構を解析するための系の開発、さまざまなCAGリピートをもつMJD原因遺伝子を導入した神経系培養細胞やトランジスジェニックマウスの作製を試みる。このようなモデルを解析することによって遺伝性神経変性疾患の分子レベルでの病態生理の解明、有効な治療法の開発を目指していく。
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