研究概要 |
α_1受容体,アンジオテンシン(AT)受容体,エンドセリン(ET)受容体は,ともにホスホリパーゼC活性化により細胞膜リン脂質のホスホイノシタイド代謝を促進するので,これらの受容体刺激は共通のシグナル伝達系を介して心筋細胞機能調節を行なっている可能性がある。これら異なった受容体刺激による調節の異同を検討することにより心筋細胞シグナル伝達におけるPI代謝の意義を検討した。 今年度の研究では,これらの異なった受容体刺激がもっとも類似性の高い陽性変力作用を発揮するウサギ心室筋において,心筋細胞収縮性およびカルシウム感受性に対する受容体刺激効果を比較検討した。実験にはカルシウム感受性蛍光色素 indo-1/AMを負荷したウサギ単離心筋細胞を用い,細胞短縮とindo/1蛍光強度(カルシウム・トランジェント: CaT)の同時測定により調節機序の詳細を検討した。 ウサギ単離心筋細胞においてイソプロテレノールによるβ受容体刺激は顕著なCaT増強作用と収縮時間の短縮に伴われた特徴的な短縮増強(収縮増強作用)を惹起した。Ca^<2+>-短縮関係は,[Ca^<2+>]_o上昇による関係と比べると右方にシフトしており,β受容体刺激はCa^<2+>感受性減少作用をもつという従来の結果と整合性のあるデータが得られた。フェニレフリンによるα_1受容体刺激はβ受容体刺激とは対照的にほんの僅かなCaTの増大および収縮時間の延長と弛緩速度の減少に伴われて惹起された。フェニレフリン投与下におけるCa^<2+>-短縮関係は従来のエクオリン負荷ウサギ乳頭筋で得られた結果とよく一致し,α_1受容体刺激は軽度のCaT増強とカルシウム感受性増強により収縮増強作用を発揮することが確認された。AT受容体およびET受容体刺激による収縮性調節もα_1受容体刺激のそれと非常に類似性が高く,PI代謝促進がこれら受容体刺激に共通の細胞内情報伝達過程となっていることが示唆された。
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