研究概要 |
1.目的:本年度は,心レニン・アンジオテンシン(RA)系は心筋組織においてautocrine/paracrineに作用すると考えられ,また,心筋細胞の増殖・分化,および心肥大形成および心不全発症と密接に関連していることから,心筋組織のRA系の病態生理学意義について,特にアンジオテンシノーゲンに注目して,その役割をin vivoおよびin vitroにて検討した. 2.実験(1):高血圧モデルラットの心アンジオテンシノーゲン発現についての検討.高血圧自然発症ラット(SHR)および遺伝性肥満Wistar fattyラット(WFR)において高血圧の進展にともなう心アンジオテンシノーゲン遺伝子発現の変化を観察した.SHRおよびWFRでは高血圧の進展にともない肝アンジオテンシノーゲン遺伝子発現は変化がなかったが,心アンジオテンシノーゲン遺伝子発現の増加が認められ,その経時的変化は大動脈アンジオテンシノーゲン遺伝子と異なっていた. 3.実験(2):ラット培養心筋細胞におけるアンジオテンシノーゲン発現についての検討.ラット心筋細胞および心線維芽細胞においてアンジオテンシンII添加および伸展刺激にともなうアンジオテンシノーゲン遺伝子発現の変化を観察した.心筋細胞においてはアンジオテンシンII添加および伸展刺激にともないアンジオテンシノーゲン遺伝子発現の増加が認められたが,心線維芽細胞では変化がみられなかった. 4.実験(3):アンジオテンシノーゲン欠損マウスにおける情報伝達系活性化についての検討.アンジオテンシノーゲン欠損マウス新生児から得られた心筋細胞および心線維芽細胞においてアンジオテンシンII添加および伸展刺激にともなうmitogen-activated protein kinase(MAPK)活性の変化を観察した.アンジオテンシノーゲン欠損マウス由来心筋細胞および心線維芽細胞においては,対照のICRマウスと同様に,アンジオテンシII添加および伸展刺激によりMAPK活性の増加が認められた. 5.本年度の結論:心アンジオテンシノーゲンは肝および他の組織アンジオテンシノーゲンとは異なる発現調節を受け,また,アンジオテンシンII添加および伸展刺激などの心肥大・心不全シグナルが発現の活性化をもたらしうると考えられた.一方,心RA系が存在しない状態においても,これらの刺激により心筋細胞の情報伝達系の活性化が起こる可能性が示された.今後は,実験(2)の発展的課題として,アンジオテンシンII添加および伸展刺激にともなうアンジオテンシノーゲン遺伝子の転写活性化領域を同定し転写調節因子の検索を行うとともに,実験(3)の発展的課題として,心レニン・アンジオテンシン系の活性化に依存せずに心肥大に関与する新たな情報伝達系についての解析を行う予定である.
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