マウスES細胞をマクロファージコロニー刺激因子を欠損するストロマ細胞株であるOP9と共生培養すると、効率よく骨髄系・Bリンパ系の細胞に分化誘導できるシステムを開発してきた。この方法を用いることにいより、分化誘導10日以後に成体型赤血球(definitive erythrocyte: EryD)が出現することを報告してきたが、本年度の研究により、それ以前に胚型赤血球(primitiveerythrocyte: EryD)がマウス個体発生と非常に類似した時系列をもって発生してくることが明らかとなった。そこで、個体発生において最初に発生してくるEryP発生の性格付けならびにEryDとの細胞系列の異同についての検討をおこなった。 EryP数は分化誘導後7日目にピークを抑え、その後急激に減少する。OP9分化誘導系ではエリスロポエチン(EPO)遺伝子の発現が認められないこと、またEPOの添加によりEryPの減少を解除することが可能であったことから、(1)EryPの発生にはEPOが不要であること、しかし、(2)EryPの生存にはEPOが必須であること、が明らかとなった。また、c-kitの阻止抗体であるACK2を分化誘導時に添加したところEryDの出現は完全にブロックされたが、EryPの出現は全く影響をうけなかった。さらに、EryPの前駆細胞の出現とEryDの前駆細胞の出現を限界希釈法を用いて検討したところ、それぞれの前駆細胞は異なった細胞系列に属するとの結論を得た。この結果は古来からの造血発生上の問題に終止符をうつものである。
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